どうぞ、あたたかいお茶と千千豆を片手に、ごゆるりとお楽しみくださいませ。
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五穀屋の和菓子「千千豆」は、落花生に寒梅粉(かんばいこ)をまぶして煎ったおなじみの豆菓子。
6種のお味を、さまざまな味の組み合わせで楽しむことができることから、「いろいろな・さまざまな・際限なく」という意味を持つ「千千(ちぢ)」という言葉を付けて、「千千豆(ちぢまめ)」と名付けられました。
まじりあうことでうまれる、新しい味への出会いや、様々なもののゆきかいで生じる変化に富んだ世界の魅力をとじ込めた、この世界に1つのお菓子です。
お味は全部で6種類。
甘いものからしょっぱいものまで、発酵の素材にこだわり、見た目も味も様々に取りそろえています。
今回は、素朴な味の中で塩糀の旨味・塩味と、きな粉の甘味が絶妙な「塩糀きな粉」作りの一部を特別にお伝えいたします。
6つの味がある千千豆ですが、それぞれの味付けがされる前の「生地豆(きじまめ)」は同じもの。
落花生に糖蜜と寒梅粉をまぶすところは一般的な豆菓子と同じですが、五穀屋ならではの素材として五穀のひとつである「ひえ」の粉を寒梅粉に混ぜ込んでから、煎って香ばしく仕上げました。
▼ カラッと煎られた生地豆
ひえは、五穀の中ではもっとも古く縄文時代から食されてきた、日本最古の穀物。
このひえ粉を入れることにより、一般的な豆菓子とは異なる食味を持つ、五穀屋ならではの一品となっています。
普段は食べることのできない「生地豆」を、特別に試食させていただきました。
味付け前ということもあり、あまり味がしないのではと思っていましたが、落花生と糖蜜の甘味のおかげで、そのままでもほんのりと甘く、素材そのものの味が感じられました。
このやさしい甘さだからこそ、この後で味付けがより引き立つのだそうです。
次に、生地豆に発酵食「塩糀」をまぶします。
これは、液体の塩糀をまぶす「塩糀きな粉」ならではの行程で、その他の「粉のみで味付けする千千豆」では行いません。
生地豆が割れないように、職人の鮮やかな手つきで素早く、そして万遍なく。
すべての豆に塩糀の旨味がプラスされました。
さらに、大きな乾燥機に入れて、回転させながら熱風を吹き付け、乾燥させて行きます。
乾燥機の窯は、熱の伝導率のよい銅でできています。
「乾燥」をするのは、味付けの粉をまぶす前に、生地豆を完全に乾燥させなくてはならないためです。
この行程も「塩糀きな粉」特有のもので、「ここを一番時間をかけて、丁寧にやることが大切なんです。」と職人は語ります。
力まかせに撹拌してしまうと、繊細な生地豆はすぐに割れてしまうため、乾燥の具合を見ながら、たまに機械を止め、大きなしゃもじでやさしく塊になった豆を解いていきます。
完全に乾燥するまで、何度も確認しながら、職人が付き添います。
最初はダマになりやすかった生地豆は、乾燥が進むごとに乾き、塊がほぐれていきます。
そして、回転させたときに豆同士がぶつかるときの音も「カラカラ」と乾いた音に変化していきます。
▼ 乾燥機の銅の窯の中に入れたばかりの生地豆(上) / 乾燥終了間近で乾いた生地豆(下)
最後に検食をして、生地豆が内部まで乾燥していることが確認できたら、乾燥は終了です。
豆が乾いたら、ついにきな粉の味付けに入ります。
きな粉は国産のものを使用しています。
豆にまぶす前に粉糖と混ぜて準備しておくのですが、豆に対してかなりの量で驚いてしましました。
このきな粉、表面に軽くまぶすだけならもっと少なくてよいのですが、五穀屋の千千豆は何度もまぶして、味わいの決め手となる「粉の層」を作るのだそうです。
この層を作るために、たくさんのきな粉が必要なんですね。
また、味種ごとに粉の味の濃さが違うため、層の厚さも異なるのだとか。
ただ粉をまぶすだけでない、繊細な調節が千千豆のおいしさの秘訣なのです。
▼ きな粉と粉糖をまぜている様子
ここで、生地豆にまんべんなく味付けできるように、専用の回転式の機械が登場。
ドラム部分は、まるで蛍袋の花のような形をしていて、レバーを倒すとぐるぐると回転する仕組みです。
いよいよ粉をつける前に、ここでひと工夫。
生地豆の表面はつるりと滑らかで、さらさらの触り心地をしています。
このままでは粉が豆に付かないので、粉を振りかける前に、植物由来の油を回しかけます。
油というと、サラダ油のように液体のものが思い浮かびますが、この油は常温で固体になる性質を持っているので、一度温めて液体にしてから使用します。
▼ 生地豆にかける前に溶かした植物油
実は、この「常温で固体になる」という性質を利用し、一度温めて液体になった油が固まる瞬間を狙ってきな粉を振りかけて一緒に固めるのだそうです。
油が冷えて固体になってしまった後では、きな粉が付かないため、まさに時間との勝負。
豆の表面の状態を観察し、一瞬を見逃さない確かな目と、素早く・満遍なく振りかけることのできる技術が必要なのです。
その一連の作業は、まさに職人技。
やすやすとは真似できない確かな手つきに、感嘆のため息が漏れてしまいます。
▼ 植物油をまわしかける(上) / きな粉を振る(下)
最初の粉が付け終わったら、後はこの作業を3〜4回繰り返し、ようやく完成します。
1回目の粉付け後と、完成品を比べると大きさ一回り違うのが分かりますね。
きな粉の層がうまくできあがり、生地豆をやさしく、均一に包んでいるからこそ、こうして大きさの違いが感じられるんです。
味も、完成品のほうがたくさんきな粉がまぶされていて、甘味ときな粉の味がよく感じられました。
▼ 1回目の粉付けの後の千千豆(上) / 完成品の千千豆(下)
こうして完成した千千豆は、包装された後ようやく店舗にならびます。
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いかがでしたか?
今回は、「千千豆 塩糀きな粉」作りの一面をお伝えいたしました。
この記事を通じて、千千豆のちいさな粒ひとつひとつに、知られざる“千千”の苦労が込められていることがお分かりいただけましたら幸いです。
また、今回ご紹介した「千千豆」は、素材や味の構成にもこだわったお菓子。
ご紹介しきれなかったこだわりや、他の味種については、またの機会にお伝えしてまいります。
どうぞ、お楽しみに。
▼ 今回ご紹介した商品 ▼
「五穀豆菓子 千千豆」
単品 648円(税込)
6種入り 2,268円(税込)
オンラインショップはこちら
春待ち顔の木々が次々と新芽を出す”木の芽時”となり、今にもほころびそうな丸く柔らかい木の芽が、あちこちで見られるようになりました。
今日は、そんな丸くて可愛らしい木の芽にも似た、五穀屋の和菓子「千千豆(ちぢまめ)」に注目。
千千豆作りの現場に潜入して、そのおいしさの秘密をお伝えいたします。