これは単におむすびの形に近づけるように丸くしたわけではありません。
実は、おせんべいを揚げる際に熱を均等に通すため、丸みを付けているのです。
様々な丸みの角度・カーブの大きさのものから、
今の形が「一番サクサクになる」ものとして選ばれました。
なんとも可愛らしい、ころんとした三角形には、
五穀屋のこだわりだけでなく、食感の秘密も詰まっていたんです。
この「サクサク食感」、生みだすために大切なのは、形だけではありません。
もち米を蒸して乾燥させ、揚げるところも大切なポイントです。
こちらの写真をご覧ください。
右が、蒸して乾燥させた、揚げる前の山むすびです。
これが揚げるとふわっと膨らみ、左のようにひと周り大きくなります。
揚げる前の山むすびは、さわると固く、カチカチとした触感は生のお米のよう。
この「蒸して乾燥させる」という行程は、
揚げたおせんべいの共通のサクサクとした食感に必要不可欠。
その理由は、もち米に含まれる「デンプン」の特性から。
食品用語では、
蒸す行程でデンプンが柔らかくなることを「アルファ化(糊化)」、
ゆっくりと乾燥させる行程で固くなることを「ベータ化(老化)」といいます。
最初に蒸すことで、水分と熱によってもち米の中に含まれるデンプンの間に小さな隙間ができ、
もち米がふっくらと柔らかくなります。
このふっくらした状態のものを乾燥させると、もち米はベータ化により再び固くなりますが、
一度アルファ化してベータ化したものは、生のお米とは違い、
焼いたり揚げたりすることで再びアルファ化して独特のサクサク感を得ることができるのです。
また、この「デンプンのアルファ化」は保存食にも応用されています。
一度炊いたお米を急速に乾燥させることで、アルファ化したままの状態で長期保存することができ、
水に浸すと簡単にもちもちのお米を食べることができます。
実は、古来でも保存食としてアルファ化したお米を乾燥させ、
「糒・乾飯(はしい、ほしいい、かれい、かれいい)」と呼び、
旅に携帯して食されていました。
その歴史は古く、
平安初期に記された「伊勢物語」の一節でも登場するほど。
▲「伊勢物語 東下り」にて登場する「杜若」の仲間の菖蒲の花
「東下り」に書かれている、美しく咲く杜若(かきつばた)を見て詠んだ、
「から衣 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ」
五七五七七のそれぞれの頭に“かきつばた”を据えたこの歌は、大変有名ですね。
実はこの歌、前後の文脈には、
「旅の途中、餉(かれいい)を食べていたときに、故郷に残した妻を思って歌を詠んだところ、涙でふやけてしまった。」
というエピソードがあるのです。
平安時代から脈々と受け継がれた食の知恵が、
現代の和菓子のサクサク食感に通じているなんて、とても面白いですね。
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乾燥させた山むすび、次はいよいよ揚げる行程です。
透き通った黄金色のこちらは、おせんべいを揚げる「油」。
開発当初は「サラダ油」「オリーブオイル」など、様々な油が試されましたが、
最もサクサクとした軽やかな食感となったのが、こちらのお米から採れた「米油」でした。
五穀せんべいに最も相性のよい油が、お米の油というのは運命的なものを感じますね。
この揚げる行程、油選びだけでなく、「温度と時間」にも試行錯誤がありました。
「山むすび 七福米塩」には、”七福米”の名前の通り、7種の穀物を使用しています。
その中でも、あわ、ひえ、きび、大麦などの、米以外の穀物は油がしみ込みにくく、
ある温度より高かったり、低かったりするととても固くなってしまうという特性がありました。
この「ある一点の温度」を探すことは、とても根気のいる作業でした。
仕上がりの食感に妥協をしない職人の手により、何度も何度も調整を重ねた結果、
今のちょうど良い温度を見つけることができ、
ザクザクとした五穀の触感と風味豊かなおせんべいが出来上がったのです。
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カラッと揚げられて、サクサク・ザクザクの食感になった山むすび。
最後の仕上げは味付けです。
「玄米醤油」「七福米塩」に使われている味付けは、
それぞれ「醤油+砂糖」、「塩+鰹節」だけという、意外にシンプルなもの。
こちらは、「玄米醤油」に使われている醤油と砂糖。
醤油は、先日「企業訪問:加藤醤油編」にてご報告した、加藤醤油さんで作っている「こころ」です。
味付けが単純だからこそ、醤油そのものの香りを楽しめるように、
大豆が香る、醤油自体の風味が強いものを選びました。
また、味のアクセントとして、甘みを加える砂糖には、
醤油の香りを邪魔しないよう、あえて精製度の高いものを使用。
砂糖はあくまで醤油の引き立て役なんです。
そしてこちらが、「七福米塩」に使われている塩と鰹節。
「山むすび 七福米塩」をひとくち頬張ると、その味わい深さに
「本当に塩と鰹節だけの味付けなの?」
と驚かれることがあります。
塩と鰹節という一見単純すぎる味付けですが、素材にこだわることにより、
奥深い味わいを作り出しています。
使用しているのは沖縄産の「雪塩」。
粗塩や岩塩など、様々な種類の塩で試した結果、この塩にたどり着きました。
海のミネラルが豊富に含まれている、旨味がぎゅっととじ込められたこの塩は、
粒子も細かく、山むすびの表面によくなじむのです。
そしてさらに旨みを追加するのが、こちらの発酵食品「鰹節」。
そう、あまり知られていませんが、鰹節は実は鰹を発酵させた、れっきとした”発酵食品”なんです。
発酵によって熟成された旨みが、細かい鰹節として隅々まで行き渡り、
雪塩と相まって「山むすび 七福米塩」深い味わいを作り出しています。
職人によると、味付けで一番重要視したのは「味の引き算」。
「発酵食品の旨味を最大限に引き立たせるために、あえて余計なものは入れなかった」と職人は言います。
「味というものは、どんどん足せばいいものじゃないんです。
和食で言う「お吸い物」のように、シンプルな中にも完成された、
素材の旨みを感じる一品を作りたかったんですよ。」
こう語る和菓子職人の熱意には、
並々ならぬものがありました。
五穀屋のコンセプトである「五穀」×「発酵」×「和のしきたり」
すべてがぎゅっと詰まった「山むすび」は、まさに五穀屋そのものを表す一品といえるでしょう。
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いかがでしたか?
今回は、「五穀せんべい 山むすび」の開発秘話や、
素材のこだわりをお伝えいたしました。
五穀屋の商品へのこだわりが少しでも伝わったでしょうか。
また、その他の商品の魅力についても、今後折を見て発信して参ります。
どうぞお楽しみに。
▼ 今回ご紹介した商品 ▼
「山むすび 玄米醤油」
594円(税込)
オンラインショップはこちら
「山むすび 七福米塩」
594円(税込)
オンラインショップはこちら
「山むすび 2種 20枚入り」
2,160円(税込)
オンラインショップはこちら
今回は「山むすび」の開発に携わった和菓子職人から聞いた、開発秘話をお伝えして参ります。
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五穀屋の山むすびは、おせんべいには珍しい“おむすび型”の三角形。
「山の神様を敬って象られたという「おむすび」に、五穀の美味しさを感じてほしい」
そんな思いから山むすびの開発がはじまりました。
一般的なおせんべいは、もち米粉を練って作った丸い形をしたものが多いのですが、
山むすびは米や麦などの五穀の食味を感じるよう、お米の形を残したままで、三角の形に。
この三角形、角が丸くなっているのにお気づきでしょうか?